大判例

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東京地方裁判所 昭和23年(ワ)1330号 判決

原告 中沢政義

被告 小沼南水夫

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し東京都葛飾区本田立石町百七十六番地所在木造瓦葺平家一棟二戸の内向て右の一戸建坪十坪六合を明渡し且つ昭和二十二年三月一日より右明渡済に至る迄一ケ月金二十七円の割合による金員の支拂をせよ、訴訟費用は被告の負担とする」との判決並に仮執行の宣言を求め、請求の原因として、原告は昭和十八年五月頃被告に対し原告の所有に係る前記建物を一ケ月賃料金二十七円、原告代理人訴外中村留作方に持参支拂期間三ケ年と定めて賃貸した処、被告は同二十二年三月一日より同二十三年三月三十一日迄右賃料の支拂を怠つたので、原告は昭和二十三年四月十二日内容証明郵便で二日以内に右延滞賃料を前記訴外人方に於て支拂うべき旨催告の意思表示を発し右書面は同月十三日被告に到達したが右期間内に何等履行の提供がなかつたので、原告は更に昭和二十三年四月十七日被告に対し内容証明郵便で本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示を発し右書面は同月十九日被告に到達した。故に本件原被告間の賃貸借契約は昭和二十三年四月十九日に解除され以後被告は原告に対し前記建物を明渡すべき義務があるにも拘らず之が履行を怠りその結果原告に対し一ケ月金二十七円の割合による相当賃料と同額の損害を與えてゐるので、原告は被告に対し前記建物の明渡を求め且つ昭和二十二年三月一日より同二十三年四月十九日迄一ケ月金二十七円の割合の延滞賃料及び本契約解除の翌日である同月二十日より右明渡済に至る迄一ケ月右の割合による損害金の支拂を求めるため本訴に及んだ次第であると陳述し、被告主張の賃料の受領を拒絶した事実を否認した。<立証省略>

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め答弁として、被告が原告より本件建物を昭和十八年五月頃賃料一ケ月金二十七円の約定で賃借したこと及び原告より同二十三年四月十二日附及び同月十七日附の催告並に解除の意思表示のあつたことは認めるがその余の事実は否認する。本賃貸借契約の内容は期限の定めがなく賃料は訴外中村留作が毎月末被告方に於て取立てる旨の約定であつて、昭和二十一年一月前記訴外人が被告方に賃料の取立に來た際一月分以後の賃料を約定の一ケ月金二十七円の三倍に値上した上支拂つて貰いたい旨申込んだが、被告は右金額による賃料の支拂は地代家賃の統制に違反するので之を拒絶し前記約定の金額による賃料を同人に対して提供してその受領を求めたが拒絶され、以後の提供に対しても依然その受領を拒絶されたので左記のように東京司法事務局に右賃料を供託した。(一)昭和二十二年八月八日金五百十三円(自昭和二十一年一月分至同二十二年七月分)(二)昭和二十三年一月二十九日金百六十二円(自昭和二十二年八月分至同二十三年一月分)(三)昭和二十三年四月二十六日金五十四円(昭和二十三年二、三月分)以上のように被告は原告に対し何等賃料延滞の事実がないのに拘らず右を理由として本件賃貸借契約を解除し家屋の明渡並に延滞賃料及び損害金の支拂を求める原告の本訴請求はこの点に於て理由がないからすべて失当である。仮りに右債務不履行の事実があるとしても原告主張のように一年一ケ月余に亘る債務に対し催告の意思表示到達後二日以内に支拂をせよと云うような極めて短い催告期間を附した本催告は相当でないからその効力がなく故に本契約の意思表示も又無効である。更に原告は他にも多くの家屋を所有し(その一部は現に明渡爭訟中)でいるものであるが本件家屋の明渡を強行するため故意に賃料債務の遅滞を仮装して本契約を解除し本訴を提起したものであるから不当に権利を濫用し若くは信義誠実の原則に違反する故右解除の意思表示は無効であると陳述した<立証省略>。

三、理  由

被告が原告より本件建物を昭和十八年五月頃賃料一ケ月二十七円の割合で賃借したこと及び原告より同二十三年四月十二日附及び同月十七日附の催告並に解除の意思表示があつたことは当事者間に何等爭がない。而して成立に爭のない乙第二号証証人高崎キンの証言並に被告本人訊問の結果を綜合すれば訴外中村留作は原告代理人として毎月々末に被告方に賃料の取立に行つてゐたが昭和二十一年一月右中村が被告方に賃料の取立に行つた際一月分以後賃料を約定の一ケ月金二十七円の三倍に値上した上支拂つて貰いたい旨申込んだところ被告は右金額による賃料の支拂は地代家賃の統制に違反するので之を拒絶し、前記認定の金額による賃料を同人に対して提供してその受領を求めたが拒絶され同年八月頃賃料値上の交渉に赴いた中村に対し同年七月末日までの約定賃料を提供したが依然その受領を拒絶され、その後中村は被告方に行かなくなつたので、被告は昭和二十二年八月八日昭和二十一年一月分より昭和二十二年七月分までの賃料として金五百十三円を昭和二十三年一月二十九日昭和二十二年八月分より同二十三年一月分までの賃料として金百十二円を、いずれも東京司法事務局に供託したことを認めることができる。

以上認定の通り原告代理人中村留作は被告が約定賃料を供託したに拘らず理由なくしてその受領を拒絶したのであるから、被告の前記供託は適法であつて、これにより昭和二十一年一月一日より昭和二十三年一月末日までの賃料債務は消滅したわけである。從つて昭和二十三年四月十二日当時には被告はわずかに同年二、三月分の賃料支拂義務を負担していたにすぎないから、同日附の原告の催告は著るしく過大の請求であつて到底適法な催告と云うを得ず被告が期間内にこれが支拂をしないからと云つて遅滞の責を負うわけはない。故に賃料の延滞を理由とする催告並に契約解除の意思表示はその効力がなくその有効であることを前提とする建物の明渡の請求は理由がない。

次に昭和二十二年三月一日より昭和二十三年一月末日までの賃料債務が被告の供託により消滅したことは前認定の通りであり、成立に爭ない乙第二、第三号証によれば、被告は前同様の理由により、昭和二十三年二、三月分の賃料を同年四月二十六日、同年四月一日より同月十八日までの賃料を同日以後同年八月末日までの分と共に同年八月三十一日にそれぞれ東京司法事務局に供託したことが認められたから、原告請求の延滞賃料はこれにより消滅したものと云うべきであり、昭和二十三年四月十五日以降の損害金の請求は本件賃貸借契約が解除せられていない以上当然理由がない。

以上の通り原告の本訴請求はすべて失当であるからこれを棄却し、民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 近藤完爾 和田嘉子 小林哲郎)

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